靴を洗う「仕事」、大流行中
子どもの家には、子どもの発達に大切なあらゆる領域で、子どもの「仕事」が用意されています。
日常生活、感覚、言語、数、文化と大きく分けて5つのコーナーがありますが、そのそれぞれの領域で小さな頃からたくさんの「自分でできた!」を積み重ねることは、なによりの自信と自立につながります。
「日常生活」のコーナーには、小さな「できた!」を応援するために、日々の子ども達の生活に必要なことを、ぜんぶ子どもサイズの本物で用意しています。
子どもサイズのコップやお皿、椅子やテーブルはもちろんのこと、雑巾、ほうき、窓ふき、じょうろ、黒板消し、包丁、まな板、それに、アイロンまで!
ごっこ遊びではなく、本物で、本当に自分やお友達の暮らしに役立つことに取り組む。
この時期の子どもたちにとって、それは何よりの喜びです。
みんなびっくりするほど集中して、それぞれの仕事に取り組んでいます。
でも、小さな子どもに『仕事』って・・・?
と思う方も少なくないかもしれません。
そんな方のために「仕事」について説明を。
※モンテッソーリ教育豆知識:「WORK: 仕事」
モンテッソーリ園では、子どもが集中して取り組むことができる活動のことを「PLAY(遊び)」ではなく「WORK(仕事)」と呼びます。
子どもはまさに、生きることで学んでいて、体験することすべてを吸収し、日々、その後の自分の人生の土台をつくるという大事な「仕事」をしています。
その意味で、「WORK」は子どもを尊重・尊敬した、いい言い回しだと思います。
日本語で「子どもが仕事をしている」と聞くと、はじめ違和感を覚える方も少なくないかもしれませんが、英語の「work」には「仕事する」以外に、「作業する」「研究する」「取り組む」というような意味もあります。
すべてを体験することから学ぶ子どもたちは、本物の道具を使って、実際に役に立つ仕事をするのが大好きです!
見立て遊び、ごっこ遊びをなるべく本物に近いかたちに昇華させたい、「ピースボート子どもの家」だけでなく、世界中のモンテッソーリ園ではそんな努力と試行錯誤が続いています。
それにしても、日本語の「仕事する」という単語からは、「自ら喜んで取り組むもの」というよりも、どこか「やらされ仕事」を連想してしまうのは、どうしてなのかな・・・? 笑
自分でやりたいと思った子どもが、自信を持って自分ですることができるように大切なのは、やりかたを見せるだけでなく、本物を「子どものサイズ」で用意することです。
大人だって、ゾウさんサイズの雑巾を手渡されてもうまく絞れません。
男性の平均身長が180cm越えのデンマークに行って、キッチンの高さに驚くこともあります。
自分にぴったりの環境を与えられて安心し、仕事を思うようにできるようになるのは、子どもだって同じです。
(そう思って世の中を見渡すと、世界はあまりに大人目線で作られていることに気がつきます。モンテッソーリの先生たちは町歩きをしていて、素敵な「子どもサイズの本物」があれば即決衝動買いして、お互いに交換しあったりしています。笑)
自分でやってもいい環境さえあれば、大人がするように「自分で」やってみたかったものが全部ある、子どもにとっては夢のような「日常生活」のコーナー。
その中でも、最近人気なのは、「靴を洗う」仕事です。
上履きはもちろん、寄港地の次の日には何人もの子ども達が遊び終えた靴を持って、中には保護者の大きな靴まで持って(!)登園してくる子も出てきました。
みなみちゃん(5)は、
「もう、お父さんの靴大きすぎる!こりゃ大変だぞー」
と、つぶやきながらも何だか楽しそうに、靴を洗うのに必要なセットを準備をしています。
「机を洗う」仕事を紹介する記事 で、詳しいセットの内容を紹介しましたが、靴洗いも、子どもがすぐに取り組むことができるように考え抜いて道具を用意しています。
「セット」といっても決して高級なものをどこかで購入して用意しているわけではなく(笑)、日々の散歩とお買い物の積み重ねで、子ども道具を集めていることは前回の記事「家庭でできるモンテッソーリ」 で書いたとおりです。
旅館に泊まれば「あ、この石鹸、子どもの手にぴったり」といただいてきたり、100円ショップに寄れば「この簡易大根おろし、子どもが石鹸を削るのにぴったり」、「スポンジは市販のものを1/3に切ってみよう」、「小さなスポンジおきにはお醤油の小皿がちょうどいい」というふうに、
日々暮らしの中で目を光らせて、少しずつ環境に用意しているのですよ~。
そんな大人の愛と努力はつゆ知らず(それでいいんです!)、子どもたちは誇らしげに「自分で」セットを棚から出してきて、作業を開始します。
靴をぬらして、石鹸をつけたブラシでこすると真っ黒の泡が立ってきます。
中敷きを外し、靴底を洗うことも忘れません。
取れにくい汚れもすぐには諦めず、固いブラシを使って
「真っ白にならなーい」
と必死にこする姿も。
水気を取った後は、風通しのいい窓際の場所を選んで干します。
6歳のりんたろうくんは、空を見上げて無言でお日様の暖かさと、風を感じて
「ここだ!」
と思ったところに干しているようです。
海の上で受けるお日さまと風の力は素晴らしく、朝あらった靴は、降園する15時半にはしっかり乾いています。
白く乾いた靴を持って帰る子ども達の姿は、本当に誇らしげです。
次の寄港地でも、自分で洗ったピカピカの靴で、元気いっぱい楽しめるといいな~。