異年齢保育のススメ
「イルカだって!」「え~、どこどこ?」「いないねえ」「イルカさん、出ておいでー」
「イルイルカ~イルイルカ~イルイルイルイルカ~♪」(南の島のカメハメハの替え歌をひとりが歌い始めたら、みんなで真似っこの大合唱!)
「ピースボート子どもの家」の一日は、一人一人がそれぞれに選んだ活動をすることからはじまります。
先生たちは、子どもたち一人一人が夢中になっていることを注意深く観察していて、その子がちょうど関心を持ちそうな活動をさりげなく環境の中に用意しておくのです。
環境はいつもきちんと整理整頓されていて、子どもたち自身がどこに何があるかをきちんと把握できています。
はじめに大人が提供する環境が美しくシンプルであれば、子どもたちはちゃんと「使ったら片づける」を徹底するんですね。
緑のはさみは緑のトレーに、折り紙も袋から出してひとつの引き出しに。
ちょっとした仕掛けで子どもたち自ら喜んで片づけてくれるようになります。(我が家でももっとちゃんと実践しないと・・・)
「知りたい」「やりたい」を誰にも邪魔されることなく
自分のペースで繰り返すことを許された子どもたちの集中力は驚くほど。
同じ船に乗っていて、子どもの家を訪れる大人たちはよく、突然の来客である自分に見向きもしないで
黙々と作業を続ける子どもたちの集中力に驚きます。
自分で選んだ作業に集中して没頭し、やり遂げたあとの子どもたちの顔のすがすがしさといったら!
自尊心や自立心は、こうしてグングン育っていきます。
個々の興味を最大限にのばしながら、社会性だって育まれるのが「子どもの家」の自慢です。
出港からたった3週間で、子どもたち6人は本当の兄弟姉妹のように仲良くなっています。
一緒に地球一周をした親子ぐるみのお友達は、もしかしたら一生の宝物かもしれません。
今日は、異なる年齢の子どもたちがひとつの環境でともに過ごす「縦割り保育」の効果を、
インド洋でのある日の様子をとおして報告します。
ゆきとくん(4歳)の場合
登園前の朝食時、突然お米に興味を示し、登園するなり先生に「おいしいお米はどうやってできるの?」と聞きました。
(こんなとき、口から生まれた私なんかだと、その場で適当に言葉で説明してしまいそうですが、)
子どもの家の先生たちは黙って植物の図鑑を取り出し、苗や稲の写真を探してから説明します。
「脱穀」と「雑穀」を聞き間違えて、「ゆきとのばあちゃん、ごはんにだっこくいれてるの」と話していましたが。
すべて説明を聞き終わると、「今日のご飯全部食べる!」とはりきっていました。
数の100桁並べも、最近凝っていることのひとつ。
自分で黙々と並べていって、ある日、縦ラインは1の位の数字が同じということに気づきました。
縦ラインを指でなぞりながら「あ、ココとココと、、、ここが全部一緒だ!」
何にでも興味を持ち、子どもの家でも次から次に集中する対象をみつけるゆきとくん。
自分がいちばんのお兄ちゃんという自覚もたっぷりで、お友達を気遣うことも忘れません。
3歳のふみやくんがなにかを探している様子を見つけると「ふみやくんどうした?何がしたかった?」
と助け舟を出したりしています。
ゆきとくんの助け舟で筆をみつけて、大好きな自己表現に取り組むふみやくん。
ふみやくん(もうすぐ4歳)の場合
秩序感をしっかり持ち、なんでも「きちんと」こなすのが好きなふみやくん。
すべり台で遊んでいるとき、ふみやくんが着地点のマットを自らなおしていました。
それを見ていたれんちゃん(3歳)やゆきとくん(4歳)も同じようにします。
すると、「すべった後はマットをなおす」ことが子どもたちのなかで自然とルールになり、
かずほくん(1歳半)やひなたちゃん(2歳)までマットをなおすようになっています。
午後茶のカフェまでみんなで歩いていたときのこと。
ゆきとくん(4歳)がれんちゃん(もうすぐ4歳)と手をつなごうとしましたが、れんちゃんは気分が乗らない様子です。
2人の後ろを歩くふみやくんがれんちゃんの肩をポンポンとたたきながら、「れんちゃんは一人で歩きたいの?」と
声をかけると、れんちゃんは「うん」とうなずきます。
ゆきとくんが「ゆきと、れんちゃんと手つなぎたい」というのを聞くと、ふみやくんはもう一度れんちゃんに声をかけ、
「ゆきとくんはれんちゃんと手をつなぎたいみたいよ」と仲立ち!
少し考えていたれんちゃんでしたが、結果、ゆきとくんと手をつないでカフェまで歩きました。
れんちゃん(もうすぐ4歳)の場合
ここ数日は、自分でみてわかる折り紙の本を取り出し、「いえ」を作るのに凝っています。
登園するとすぐに折り紙の箱を取り出してひとつふたつ家を作ると、次は文字板のお仕事です。
砂文字を指でなぞりながら「れんのれ」「ふみやくんのふ」など、身近な人や物に当てはめています。
文字はなく、折っていく手順ひとつひとつをページごとに貼ってある手作りの折り紙教本。
これなら小さな子どもでも自分だけで作り上げることができます。
れんちゃんは一人っ子で、乗船した当初は小さいお友達に自分が遊んでいるものをとられたり、
ゆっくりのペースにあわせて行動することが苦手でした。それが、3週間たった今では、すっかりいいお姉さん!
暗唱して覚えている絵本を2歳のしんちゃんに読んであげたり、手を引いて歩いたり。
一緒に外に出るとき、最年少のかずほくん(もうすぐ2歳)のくつを履かせるのも、いつからかれんちゃんのお仕事です。
かずほくんもそれを受け入れて、すっかりれんちゃんに身をゆだねています。
かずほくん(1歳半、最年少)の場合
「あ、あ」「これ」「あれ」「ちょうだい」と1単語で意思表示をすることが多かったかずほくん、
年上のお兄さんやお姉さんに刺激されたか、乗船してたった3週間でぐっと言葉が増えてきました。
手を洗うときに水を出しすぎて「水、いっぱい」と言いながら水量を調節することも覚えました。
お兄ちゃんたちがするのを見て、おせんべいに自分でごまペーストを塗ってみたりもします。
おやつのコップだって、かずほくんもみんなと同じように、自分で運びます。
なかなか歩く事が定着せずにいつも走ってはこぼしていましたが、最近はちゃんと周りを見ています。
落としたら自分で拾って、そーっとゆっくり歩いて運ぶことができるようになってきました。
かずほくんはお兄ちゃん、お姉ちゃんが大好きで、他の子がやっている活動から何かを持って行ってしまうのが困りもの。
ところが、そんなときは、「かずほくん、どうぞは?」とゆきとくん(4歳)が促します。
そう言われるとかずほくんも嬉しそうに「どうぞ~」と返しに行くのです。
みんなのくつをきちんと揃えてくれるしんちゃん。
しんちゃん(もうすぐ3歳)の場合
はめこみ円柱(写真)が最近のお気に入り。毎日取り組んでいます。
「これはー。ちがう。こっち?」と自分で試行錯誤していましたが、後半集中力が上がってくるとスムーズです。
重い、軽い、小さい、大きい、太い、細い、を体で覚えていきます。
子どもの家の感覚教具は、同じものをひとつずつだけ用意し、決まった場所においています。
年上のゆきとくんとれんちゃんが同じ教具を使いたくて向き合ってしまっているのを見つけたしんちゃんは、
自分が集中して取り組んでいた物を1つゆきとくんに渡して「一緒にあそぼ!」と誘いに行きました。
かわいい妹分のしんちゃんに声をかけられるとトラブルもスッと解決、しんちゃんとゆきとくんが一緒に遊びはじめました。
ひなたちゃん(2歳)の場合
自分よりも小さなお友達、かずほくんに興味津々のひなたちゃん。
スポーツデッキでマジックテープでくっつくキャッチボールをしていたときに、マジックテープにくっつことがおもしくて
何度も繰り返していました。そんなときも、かずほくんもやりたがっていることを知ると、「どーぞ」と渡す小さなお姉さんです。
そんなひなたちゃんはお母さんっ子で、船の乗ったばかりの時は「だっこだっこ」が多かった甘えん坊さんでした。
ところが、楽しい雰囲気作りをして「自分で歩こうね」を徹底している子どもの家に参加して、お友達と手をつないで
広い船内を縦横無尽にお散歩するうちに、強い足腰が育ってきました。階段の上り下りもへっちゃらです!
歩きたい時期に徹底的に歩く、上りたいときに上る、というのはとても大切なこと。
手や足腰など、「からだを十分に使う」ことには、身体の健康な発育を促したり、手先が器用になるということを超えて
とても大切な意味合いがあります。自分の意志で身体を動かそう、という運動調整を自らすることで、
子どもは計画する、見通す、注意集中する、判断する、さらに想像する、というような高次の精神活動も
あわせて行っているのです。
「あぶないから」と上りたい気持ちをいつも止めたり、
「急ぐから」と言ってベビーカーに常時乗せたりすることで
子どもの自立をさまたげていませんか?
・・・という深津高子さんのことばにドキッとするお母さんはとても多いです。(私も!)
子どもたちが自分のペースで「歩く」ことを、子どもの家ではとても大切にしています。
しんちゃんと同じ年。同じくはめ込み円柱に夢中のひなたちゃん。
船が横浜を出航してからたった3週間ですが、子どもたちは日々、環境を吸収しながらぐんぐん成長しています。
子ども同士のケンカがあったり、なにかにつまづいて投げ出してしまいそうな子どもを見ると、
私なんかはついつい声をかけてしまいます。
でも、上記のような日々の風景の中で、先生が子どもたちに声をかけているのは本当に最小限。
自分は黒子に徹してあたたかく見守りながら、子どもたちが「じぶんでできる」よう、環境作りで応援しているのです。
モンテッソーリの幼児教育では、異なる年齢の子どもたちがひとつの環境で過ごします。
子どもたちは、仲間との社会生活の中で自然に成長していくという考えのもとにこうした環境をつくるのです。
年齢ごとにクラスが分かれている普通の幼稚園では、「同じ」であることを求めて競争が起こるような状況がよくあります。
一方で、子どもたちが自然とお互いの違いに関心を持っている異年齢保育の環境では、
子どもたちはびっくりするほどよく助け合います。
(日本の公教育で予算をかけずにできる改善のひとつに、異年齢保育を取り入れることがあると思います。
桃と杏の保育園もそうなったらいいのに!!)
こうして子どもたちの自治(というと大げさかな?)が保証された子どもの家を一歩出れば、
ピースボート船内には顔なじみのお兄さんお姉さんがたくさんいます。
3世代、4世代分の人々が共に生活する村のような空間は、子どもたちにとってとても刺激的です。
和太鼓をたたいたり、かっこよく踊ったり、みんなの前でマイクで発表したりするお兄さんやお姉さん。
子どもたちにとっては、大好きな親とはまた別の、あこがれの存在になっているようです。
モンテッソーリの異年齢保育×ピースボートの多世代交流、それに寄港地での異文化交流。
子どもたちは五感をいっぱいに使って、日々成長しています。
3ヶ月後、ひとまわり大きくなった子どもたちに会えるのが今から楽しみな私でした。