モンテッソーリ教育ってなに?〜「子どもの家」って、こんな場所〜

深津高子さんの講演「モンテッソーリ教育ってなに?~生命の発達を邪魔しない教育~ 」の続きです。

モンテッソーリ教育の全容は前回お話ししたとおりですが、
今回は具体的に、2歳~6歳の子どもの環境「子どもの家」がどんな場所なのかをお話しします。

子どもの家の特徴は、以下8つです。

1. 子どもが主人公、大人は黒子
2. 異年齢、縦割り保育
3. 子どもサイズ
4. (見立てではなく)本物の体験
5. 手や道具をよく使う
6. 5つのコーナー (日常生活の練習、感覚、言語、数、自己表現)
7. 自由と責任のバランス
8. 発達段階や敏感期の尊重

以下、どういうことなのか、ひとつずつ見ていきましょう。

1. 子どもが主人公、大人は黒子

朝、「もうすぐ母の日だから、お母さんの絵をかこうね」と人数分の紙を配る。普通の幼稚園で当たり前に見られる風景です。
ところが、子どもの家では、なるべくそのような一斉に何かをするというやりかたをとりません。

子どもの家に入ってまず驚くのが、先生がどこにいるかわからないこと。
先生が今日することをすべて決めるというようなことはしません。
必要なときは手助けをしますが、不必要に先生を頼る子どもを作りません。

先生は子どもを観察して援助を考えます。援助するときは、必ず隣に座ります。
その子の関心のある物事を正面に据え、自分の姿を正面から見せません。そのくらい配慮します。

2.異年齢、縦割り保育

普通の幼稚園では、去年3歳になっていた4月生まれの子も、まだ2歳になったばかりの3月生まれの子も、
入園時の4月時点で3歳の子はみんな3歳児クラス、4歳の子は4歳児クラスです。
同じ年齢で共存するといつのまにか、競争が生まれることもあります。

異年齢の子どもたちが同じ空間で過ごすと、大きな子が自然と小さい子を助ける風景を見ることができます。
助け合い、学びあいが自然とうまれていきます。
一人ひとりの得意なことを気づきあったり、吸収しあったりするのがモンテッソーリ教育。そこに年齢は関係ありません。

3. 子どもサイズ

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バナナを切る。牛乳やお茶をそそぐ。ほうき、ちりとりで掃除する。じょうろで植物に水やりをする。
子どもたちは日常生活の仕事をしたくて仕方がありません。
大人サイズの道具ではうまくできない子どもたちも、自分の手にぴったりのサイズの道具があればきちんと仕事をこなします。

「ピースボート子どもの家」でも、1才から4才の子どもにあわせて2種類に机の脚を切ったり、
レストランで食べる食器も小さいサイズで揃えました。
市販された小さな道具は探すのは難しいですが、それがモンテッソーリ教師が大切にしている「環境づくり」です。

4. (見立てではなく)本物の体験

子どもはよくお料理ごっこをします。
木製のにんじんがマジックテープでくっついてるものを切るわけですが、
そうではなく本物のにんじんを切ることをおすすめします。畑で本物の野菜を育て、収穫するのもいいです。
とにかく原体験を大切にします。

5. 手や道具をよく使う

料理も洗濯も、今はボタンひとつ。
人差し指だけでなく全ての指がコラボレーションしないとできない活動などをたくさん紹介したいですね。

6. 5つのコーナー

子どもの家には、以下5つのコーナーが用意されています。
a.日常生活、b.感覚、c.言語、d.数、e.言語の展開(文化)、自己表現。 ひとつずつ見ていきましょう。

a. 日常生活:

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いわゆるお父さん、お母さんが家でする家事のようなものですね。自分の靴を洗ったり、髪をとかしたり。
「口の周りが汚れているよ」と大人が拭くのではなく、「鏡を見てきてごらん」と伝える。
2歳の子でも、自分で拭くことができます。自分で自分の手を洗うのも、ひとつのセルフケアです。
この中にも秩序が大事で、やりかたの行程をひとつひとつ丁寧に伝えます。
花を切って生ける。窓をふく。靴を磨く、これも日常生活の練習です。

b. 感覚:

視覚、聴覚、味覚、触角、嗅覚。それぞれにあった感覚を洗練させる教具を用意しています。

c. 言語:
よく「読み・書き・ソロバン」と言いますが、
聞いて→話して→書いて→読むというのが、自然な学びの順番です。

「聞く」は胎内からはじまっています。赤ちゃんは、お母さんのおなかの中で自然に母語のアクセントを学んでいきます。

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次は、「話す」。いくらしゃべっても聞いてくれる相手がいないのでは、言語は育ちません。
あなたの話に興味があるよという大人がいることがとても大切です。

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その次は「書く」。
書く前に読もうとしても、「む・・・か・・・し・・・あ・・・る・・・と・・・こ・・・ろ・・・に・・・」となってしまいます。
これではただ拾い読みしているだけで、意味を理解しているとはいえません。
ですからモンテッソーリの環境では、まず先に自分で表現したいことを書く準備をします。

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これは「砂文字」といいます。
はじめは鉛筆でかかずに、触角、視覚、そして聴覚にもうったえていきます。
そうやって「書く」ことができるようになってから、最終的に「読む」ことができるようになる。

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モンテッソーリの環境では、ことばを体験とともに伝えていきますが、
ピースボートでは海峡や地峡の本物だって体験できます。

モンテッソーリの環境ではじめに触れる地球儀は、国境がない地球儀です。
「これはみんなが住んでいる地球を小さくしたもの。
これは土と水と空気」と言って、ひとつひとつ触ってもらいます。
ピースボートの体験は、まさにこの国境のない地球を体験することですね。
差別感、先進国、発展途上国、そんな区切りはどこにもない、本当に平等な生活を実体験してもらいます。

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行った国を調べてみる。今日はどこにいったかな、船はどこにいるかな。
「ピースボート子どもの家」では毎朝、子どもの家では地図にシールをはって体験します。

d. 数:

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4歳半くらいから体験します。
多い、少ない、重い、軽い、長い、短いなどを、数字の教育ではなく、感覚的な体験が子どもを徐々に数に向かわせます。

e. 自己表現: 
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子どもが自己表現したいときにいつでもできるように、
楽器やイーゼル、絵の具などがいつも手に取れる場所においてあります。

7. 自由と責任のバランス

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いつでも自由に自己表現できる環境を用意しながら、その「自由」と社会のルールのバランスも学びます。ここでは何をやってもいいけれど、必ずもとの場所に戻すという決まりがあります。

子どもの家には、何でも一個しかありません。
他の子が使っているのと同じものを使いたかったら、待つか「借りてもいい?」という交渉をするしかありません。
自分が使ったあとのロッカーはかならず拭きます。次の人のために黒板は消します。
のりを使ったらのりばけを必ず洗います。
集団生活の中で最低限のルールを自由の中で身につけていけるようい手伝います。

8. 発達段階や敏感期を尊重する

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運びたい、何でも匂ってみたい、針をつかって縫いたい、線にそってあるきたい、
それぞれの欲求にあわせた環境をつくります。しっかりとした「個」をそだてること、それはオーケストラにも似ています。

9. 文化の尊重

日本の文化をしっかり伝えていくと同時に、ピースボートでは世界の文化を体験することもできます。
差別心や固定概念がない幼い子ども時代に、異なる皮膚の色、違う言語や食べ物、見たことのない動植物、壮大な地形や建造物など、ありとあらゆる「違い」に出会うことは、どれほど豊かな感受性をもたらしてくれることでしょう。

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船旅で訪れる寄港地で、一緒にいる大好きな大人が共に感動する姿を見て、
子どもは「みんなちがって、みんないいんだ」という暗黙のメッセージを身につけていきます。

まさにピースボートは、「平和の文化」に不可欠な人間の寛容さや、
「未知」に対する安心感を親子にもたらしてくれることでしょう。

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・・・話は「子どもの家」に戻ります。

みんな仲良くしなさいということばかりを訴えるあまり、
一人ひとりがちゃんとフルに育っていなかったということが往々にして起こります。

子どもたちが本当に「今やりたいこと」を思う存分自由に繰り返す環境をつくると、自然と平和な空気になっていきます。
ですからひとり一人がフルに育って満ち足りていると、自然と全体が共存して育つようになっていくという、
旧教育とは逆のアプローチをモンテッソーリではとっています。

幼い最初の6年間はとても重要です。その子のペースを尊重することが大切。
最初はひとり遊びが多くても、徐々に友達と協力して育っていきます。
その時期は必ずやってくるので、それにあわせて環境を整えていけばいいのです。

つまり、サイクルとしてはこういうことです。

子どもの家で平和の種が育つプロセス発達や敏感期に配慮された環境に出会う
 ↓
好きな活動を選び、集中する体験を繰り返す
 ↓
試行錯誤のうちに次は「こうしよう」という意志が生まれる
 ↓
動きや思考が洗練されて、自分の思うように手や身体が動くようになる
 ↓
自信にあふれ、落ち着きが現れ、素直になる
 ↓
「子どもが変わった」と外から見える
 ↓
異年齢集団の中で他人のニーズを理解し、社会性が身についてくる
 ↓
マイペースを身につけ、次の挑戦に楽しく安心して向かう

このサイクルがスパイラルのようにずっと続いていくと、
人間が本来もつ「良さ」が現れ「平和の種」が育ちはじめます。

11種類の敏感期を、表で配ります。
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今日は敏感期について詳しくお話する時間がありませんが、これを少し知っているだけで、
「ちがうの!」と叫ぶ子どもにイライラせずに、子どもにまっすぐ向き合うことができます。

以上です。

※高子さんが語るモンテッソーリの「敏感期」の話は、
先述の「クーヨン」特別号「モンテッソーリの子育て」に掲載されています。

※深津高子さんご自身の話は、「 平和は子どもからはじまる 」をぜひ読んでください。
インドシナ難民キャンプで出会ったモンテッソーリ哲学の話です。

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