洋上からの報告(2):5歳のチャタと「数」
今日の主役は、5歳のチャタ。
北海道から、お母さんと2人で「ピースボート子どもの家」に参加しています。
マイペースで優しいチャタは、みんなの人気者。
みんながパパパッとおやつを済ませても、一人でじっくり、窓の外の景色を眺めながらお茶をすするような、落ち着いてノンビリ、じっくり考える態度が頼もしく、周りにいる大人が惚れ惚れと眺めてしまうような子なのです。
先生たちが、3歳のひすいちゃんが好きなんじゃないか、と中国でGETした大・中・小の3つの大きさの南京錠があります。
3歳の子は、大きさの違う3つの鍵がどれを開けることができるのか、純粋に、何度も開けては閉め、開けては閉めるのを楽しみます。一方で5歳のチャタには、チャタなりの南京錠との向き合い方がありました。
ひすいちゃんにつきあって、しばらく一緒に南京錠開けをしていたチャタは、
大・中・小と大きさの異なる鍵を開けた後、「あのさ、これはどこにつけたらいいかなぁ」と言いました。
先生が 「鍵は、大事なものがあるところにかけるといいよね」 と言うと、
チャタ 「大事なものか… どこにつけたらいいかな」 と言って部屋の中を歩きまわり、鍵をつけるべき場所を探していましたが、なかなか見つかりません。
先生が 「鍵をかける大事なもの、見つけたら教えてね」 と言うと、
チャタはその日の夕方に船内をくまなく歩いて回り、「大事なもの探し」を続けたのだけれど翌朝、「鍵をつけられるところ、なかったよ」と先生に報告しました。
鍵は、大人が「とられたくない」大事なものを守るために使うもの。
鍵をかけるべき場所を真剣に探して、「見つからないな」と判断したチャタの心には、人がモノを盗むという発想がないのかもしれない、と先生たちは感動してしまいました。
チャタは、外遊びも大好きです。
「子どもの家」のすぐ外には、思い切り走りまわることができるスポーツデッキがあります。
チャタがお気に入りのサッカーボールを抱えて、終わったら次は僕の番だ、とばかりに14時半に終わる予定のお兄さんたちのバスケットボール練習を眺めていました。
ところが、予定の時間を10分すぎても、お兄さんたちが練習をやめる気配はありません。
大人だったら「もう時間ですよ」と割って入りたくなるような場面。
スポーツデッキのすぐわきで、ボールを抱えてじっと順番を待つチャタに、
先生が 「お兄さんたち、まだ終わらないね」 と声をかけると、チャタは穏やかな声で言いました。
「うん。おにいちゃんたち、きっと、まだやっていたいんだねえ」
チャタは、とことん人を受け入れるのです。
「どうしてどいてくれないんだろう」と急かされて答えを出すのではなく、じっくり考えるのです。
そんなチャタに、先生たちは「私たちも学ぶところだらけだわ」と感心!
お兄さんたちもビックリでした。
900人が生活をともにする船は、顔と顔がつながっている小さなコミュニティーです。
大人も子どもも共存して学び合うこんな空間が、日本の都市にも戻ってきたらいいのになと思います。
さて、「ピースボート子どもの家」の環境には、一人一人の興味と発達段階に応じて取り組むうちに五感が洗練される教具がたくさん用意されています。
先生たちが「今日はみんなでお母さんのお顔を描きましょう」「さあ、いまから歌いますよ」とその日に子どもたちがすることを決めるのではなく、
子どもたちそれぞれがその日何に取り組むか自分で選び、それぞれのやりたいことを好きなだけ繰り返すことができる環境です。
「自分で気づく」こと、「自分で選ぶ」こと、「自分でできた!」を体験することは、今とても大切です。
子どもの家に来る子どもたちも、最初は「今日はなにをするの?」「これを使っていいの?」と先生に聞きます。
でも、数日もたてば自由にノビノビと活動をはじめ、徐々に深い集中力が備わっていきます。
それが、じっくりマイペースに物事と向き合うチャタには、ピッタリとあっている様子。
チャタがモンテッソーリ教育の感覚教具のひとつ、「はめ込み円柱」の存在に気付いたときのことです。
(※「はめ込み円柱」とは、漸次性のある円柱を視覚で識別しながら同じ大きさの穴にはめこむ教具のこと。
太い順・大きい順・高い順・厚さの順ではめ込まれている円柱を触り、見比べることで観察力が養われるだけでなく、親指・人差し指・中指の3本指ででつまみをしっかりとつまみ円柱を出し入れする運動が、鉛筆を持つ準備にもなっているという、深~い教具です。
間違えて円柱を他の穴に入れてしまうと、どうしても、円柱が残ってしまうので、子どもは、大人によって間違いを訂正されるのではなく、自分で自分の間違いを発見して、直していくようになります)
チャタは、最初はただ円柱の底面の大きさと、木枠の穴の大きさを見比べながら、
1個づつ、元の穴にはめ込むことをパズルのように楽しんでいました。
ところがさすが5歳、すぐに、同じ棚に似たようなものがあと3つあることに気が付きました。
「こっちもやりたい!」
と言って、すべてのはめ込み円柱を棚から取り出し、出し入れを繰り返すうちに
「あ、これはだんだん大きくなっていく」
「こっちのは、だんだん重くなっていくんだね」
「大きさと、長さと、太さが違うようになっているんだね」
「あ、でも、これとこれは同じだ」
と、教具の仕掛けに自分で気がつき、深く満足していました。
そんなチャタが1ヶ月間「ピースボート子どもの家」で過ごした今、
夢中になっているものは、なんと「数」!
モンテッソーリの「数」教具もまた、深~いんです!
今、チャタがハマっているのは、1000までの位の数のカードと具体物の量を一致させる教具を使った「銀行ごっこ」です。
小学校に入らない小さな子どもが、「いち、ん、さん」と唱えられるようになり、100まで数えたりすると母親は往々にして 「うちの子、天才!」なんて大喜びするものです。(私とかね!)
でも、モンテッソーリさんは数詞が唱えられたからといって、数の概念を理解したとは考えませんでした。
1や2や3に触れるとき、大切なのは、その背景となる実物の集まり、つまり量です。
数詞と量の対応が出来、それが書き表せるようになって初めて数の概念を理解したと言えるでしょう。
小学校で「1+1=2」を数字で教え込まれる前に、子どもたちが数詞で示されている量をすぐに
イメージできるようになるためにはどうしたらいいか、それが考え抜かれた面白い教具がたくさんあります。
・・・って、そんなウンチクを先生が子どもたちに語ることは、もちろんありません。
子どもたちはそれを「勝手に」楽しむ中で、自然とこの世界を理解する術を身につけていき、いつのまにか、より深い好奇心や自信につなげていくのです。
夢中で遊ぶ中で「抽象」を身につけていく子どもたちは、
いつの間にか教具を使わなくても頭の中で数を操作できるようになっていきます。
今、チャタはそれが面白くて仕方がありません。
「ちゃた、こんな難しいこともできるようになってうれしいなぁ」
「こんなに大きい数字が出来ちゃったよ。すごく面白いね~!!」
おやつの後にも、昼食の後にも、自分から「続きがやりたい!もっとやりたい!」と、なんども繰り返しています。
そんなチャタ、ついに先日は、「数」好きが高じて、オリジナルのすごろくまで作りました。
同じ5歳のあけみちゃんに、遊びかたを説明しています。あけみちゃんも、大喜び。
すっかり盛り上がった2人は、なにやら内緒話も・・・
チャタはこの日、先生にこっそり、「あけみちゃんて、かわいいね」と伝えてくれました。
地球一周の洋上で、小さな恋が始まることも・・・ あるのかしら?
一人一人の成長、そして保護者のみなさんの喜びと向き合うのは、運営側としてもなによりの幸せです。
チャタの旅、子どもたちの旅は、まだまだ続きます!
子どもたちとトコトン向き合って「育ち」を応援するエキスパートの先生たちでつくる「ピースボート子どもの家」は私たちの自慢ですが、「地球一周の船旅」の主役はやっぱり寄港地です。
次回は、居心地最高の船を一歩出て、訪れる寄港地での異文化との出会いや冒険を紹介する予定です。
★次回以降の「ピースボート子どもの家」については、ピースボートステーション をご覧ください。