洋上レポート(7):子ども向け寄港地説明会、ベトナム編
ベトナム(ダナン)寄港の翌日。
今日は、子どもの家に、ベトナムから乗船された、DAVA(ダナン枯葉剤被害者協会)のアンさんをゲストとして招待しました。
ベトナムの挨拶や手遊びを紹介してもらったあとで、ごくごく簡単に、ベトナム戦争と枯葉剤被害のことを子ども達に伝えてみました。
まずはアオザイを着た女の子のペープサートを使って、子どもたちに分かりやすく説明します。
「こんにちは。私はシンちゃん。みんな、昨日のベトナムは楽しかった?
今日はベトナムからお友だちを連れてきたから紹介するね。
この子はアンちゃん。
アンちゃんはみんなが昨日行った、ベトナムからきたんだよ。
ベトナムって、昨日はとても楽しい国だったよね。
でもね、実はずっと昔に、みんなのお母さんがまだ子どもだったころに、ベトナムは戦争をしていたんだよ。戦争って、国と国がけんかすることだよ。
ベトナムの兵隊さんは、森やジャングルに隠れていたんだけど、その兵隊さんを見つけ出すために、相手の国は木も草もすべて枯らせてしまう、お薬を空からまいたんだよ。でもそのお薬は、木や草を枯らせてしまうだけでなく、人間にも毒になるお薬だったの。そのお薬を浴びたアンちゃんのお父さんは、お薬のせいで死んでしまったの。お薬を浴びたお母さんから生まれてきたアンちゃんも、お薬のせいで体が大きくならなかったんだよ。
アンちゃんは、今は、手が不自由だったり、足が不自由だったりする人たちを助けたり、もう二度と戦争が起こらないように、枯葉剤が使われないように、ってみんなにお話しするるお仕事をしているんだよ。」
お話は、時間にしてほんの2分くらい。
そのあと、アンさんと一緒に遊びました。
1歳児さんたちは楽しく手遊びするのですが、大きい子達は少し沈んだ様子。
初めての「子ども向け寄港地レクチャー」、お話はごくごくシンプルなものだったし、まあ子ども達も「ふうん」という感じかな?と思っていたけれど、ニコちゃん(7歳)は悲しくて泣いちゃいました。
ナイキ君(6歳)は「どうして、大人は悪い毒をわざわざつくったの?」「どうして毒を人の上にまいたの?」と質問攻めでした。
障がいを抱え、差別を受け続けて大人になった、まだ27歳のアンさんは「わかりません」とほほえむばかりで、ナイキくんは複雑な顔をしていました。
ももちゃん(4歳)は途中からグタグタ~っと床に寝っころがりだして
「早くかえりたい」と言うので、大人達は4歳には少し難しかったかな~?眠いのかな~?と思っていましたが、自分の部屋に戻るなり、大号泣がはじまりました。
ヒックヒックと泣きながら
「もも、かなしくてもうききたくないとおもっちゃったの。
もも、パパといっしょにふねにのればよかったっておもっちゃったの。
パパにあいたくなっちゃったの。わあ~!!!!!」
とママに抱きつきました。
枯れ葉剤の影響でお父さんを亡くしたアンさんに、深く共感したのでしょう。
絵本の中の世界と、今目の前で出会っている人の身に実際に起こったことの差は、子どもたちでも、いえ、子どもたちだからこそ、しっかりわかるんだと思いました。
大人になると、まるで映画でも観るようにしてこういう話を聞いてしまうけど、共感力と想像力でいったら、子ども達の方がずっと鋭いのかもしれません。
アンさんとの出会いは、ベトナムでの楽しかった1日とともに、子ども達の心に刻まれるのでしょうか。「戦争」や「枯れ葉剤」は難しかったでしょうか。
世界は、楽しさや美しさに満ちています。
でもその中に、人間が作りだしてしまった悲しみや不幸も沢山あることを、子ども達と旅していると感じます。
改めて、子どもの「どうして?」に答えることができないような悲しい出来事は、この世界からなくしていかなくてはならないと思いました。
親子で成長する船旅です。
《補足として》
ピースボートでは、地球一周の洋上で区間に分けて「航路説明会」というのを開催しています。これから訪れる港の文化や特徴、それに通貨やおいしい食べ物 なんかについても説明しています。
一般的に大人向けの内容だったものを、「ピースボート子どもの家」では、子どもの目線にたって『子どものための』寄港地説明会 を実施しています。
絵本や教科書で教えて貰うのではなく、目の前の本物を見ながら話を聞く子どもたちは、全身で吸収し、理解していくのが分かります。
今クルーズでも、参加者有志の協力を得ながら数多くの子ども向け寄港地説明会を実施していく予定です。