「世界一幸せな国」デンマーク
6月10日 コペンハーゲン(デンマーク)
「世界一幸せな国」で、タメイキをつく
世界最高レベルの社会保障制度。食料もエネルギーも自給。国民の幸福度調査では、世界ナンバー・ワン!
・・・どう考えても、世界でもっとも民主主義が進んでいる国・デンマーク。
こんな国もあるのに、日本がアメリカばっかり真似をするのは、どうして??
※デンマークは、実はツアー添乗が忙しすぎた上にデジカメを忘れて、写真やメモがとれなかった寄港地です。
それもあって、船内企画用に事前に調べておいたアンチョコをもとに「医療、教育、環境、経済、平和」の
5項目で、ちょっとまじめにレポート風ブログを書くしかなかったのが今回の日記。
文字ばっかりだけど、おつきあいください。
▼医療・福祉のこと
今、私は2週間に一度、妊婦健診に通っている。
そして、病院や助産院に行くたびに 「ああ、高いなあ」 とため息をつく。
ドクドクドクドク・・・
びっくりするような勢いで生きている赤ちゃんの心音を聞くのはとってもワクワクする。
いつもとーっても楽しみな検診だけど、どうして15分間の診療、
しかも「なにも問題がない」ことを確認するだけで7000円かかるんだろう。
といっても、そのうち 5000円は自治体にカバーしてもらえる。
モモを出産した2007年以前はそのシステムさえなかったから、今回のその補助に関しては
少し前まで心から感謝していた。
アメリカで出産しようとしていた友達に、アメリカの医療保障がどれだけイケてないかを聞いていたから
なおさら、というのもあるかもしれない。
でも、北欧に行った後では話が違う。
その差額の2000円にも、出産費用の55万円にも、タメイキが出ちゃうわけです。
だって、デンマークでは、出産費用はもちろん、病院の入院・治療費も無料。
お葬式代まで国が負担する。
国立病院の集中管理病棟の入院費は、本当だったら1日あたり日本円で50万円かかっている。
それだと、6年間毎日入院している人には億単位(!)で医療費がかかる計算になるけれど、
デンマーク国民には一切の金銭面での負担がない。
子どもや親の看病で仕事に出られない日のお給料も、国庫から補填されるんだって。
この国では、長期入院の介護のために家族の誰かが仕事をやめざるを得なかったり、
経済的負担に苦しむことが、ない。
▼次に、教育のこと。
私たち夫婦は、モモが保育園に行けるように、今、毎月だいたい3万円を杉並区に払っている。
子ども一人あたり月に10万円だったっけな、とにかくかかっている費用のほとんどを
自治体がカバーしてくれていることを知っているし、今のところそれに感謝しながら、
なんとかやっていけている。
でも、モモが中学から私立に行きたくなったら・・・ とか、留学したいと言ったら・・・とか考えると、
私がいつまでも自分の個人的なロマンを大切にして、NGOの薄給で働いていることが
はたして家計的に許されるのか、わからなくなるときもある。
デンマークでは、小学校から大学までの教育費が、当然のように、無料。
さらに、「教育は国家を支える人材を育成する国家的事業である」という考え方から、
すべての大学生に毎月10万円程度の「就学支援金」が国から与えられる。
・・・大学生に、毎月、10万円!!
学費が無料で、さらに毎月10万円を受け取る大学生たちは、
みんな18歳になると両親から自立して、自分の力で大人として生きていくようになる。
大人の先輩たちも、それを喜んでサポートする。
教育の成果は個人のためだけでなく、デンマーク社会を豊かにすると考えられている。
高等学校の卒業資格はデンマーク、スウェーデン、ノルウェー3カ国共通の「大学入学資格」として通用する。
つまり、大学入学試験がない。高校3年間のすべての科目の平均点数で入学できる大学と学部が決まる。
だから高校教育が大学入試を目的に行われることがないし、受験のための授業も勉強もない。
丸暗記できているかどうかを試すテストはなく、社会科や言語はもちろん、数学でも
問題を解くための口頭でのやりとりをもってテストとしたりする。
子どもたちは、大学卒業後さらに4年間の特別訓練学校で教育のトレーニングを積んだ
経験豊かな先生たちに見守られながら、メキメキとクリエイティビティーをはぐくんでいる。
日本も、民主党になって、
高校の学費全額無料、とか、すべての子どもに2万5千円を支給、とか、
教員免許は大学卒業したあとにさらに2年間の大学院での勉強、1年間の教育実習が必要とか、
少なくても見た目的には「スカンジナビア・メソッド」的な公約が掲げられている。
日本の教育事情が今以上にひどくなるようなことは、絶対にあっちゃいけない。
この分野がこれからどうなるか、静かに、でも大いに、期待中。
▼それから、環境のこと。
デンマークでは、
食料自給率はカロリーベースで 300%以上 (日本は40%)、
エネルギー自給率は 156% (日本は10%)、
電力消費量の 約20% を風力発電でまかなっていて(日本は1%以下)、
2050年までには 電力の半分を風力発電で まかなおうという具体的な目標を掲げている。
でも、じゃあこの国に昔から自然とそんな政策があったかといえば、答えはNO。
きっかけは1973年のオイルショックだったそう。
デンマークではそれまで、外国の石油にほぼ100%依存していて、エネルギー自給率は1.8%だった。
でも、オイルショックを機に普通の人たちが世界に先駆けて風力発電を導入して、
2000年までには風力発電を一大産業に育て上げた。
政府のサポートがあるのはもちろんだけど、
今もデンマークの風力発電事業の80%は個人所有なんだって。
そうかあ、と、タメイキが出る。
だって、オイルショックはデンマークだけじゃなく、世界中が体験したものだったはず。
日本でも当時は深夜放送を中止してみたり、トイレットペーパーの売り惜しみ騒動があったけれど、
そのあとしばらくしたら、あっさり、相変わらずの化石エネルギーに依存する元通りの循環に戻っていった。
今も、中東の石油と天然ガスを確保するために
インド洋で米国艦船に給油を手伝って、海賊対策といって自衛隊を海外派遣している。
日本も、アメリカ支援の是非をめぐって国会でメチャクチャな時間を使って議論してないで、
そもそも国内のエネルギー自給率を上げる方向に動けるといいのにな。
でも、民主党になったからって、それを政治頼みにしていちゃだめなのかもしれない。
自分たちも動いて変えていく、というのをデンマークで突きつけられた気がした。
(デンマークでは、ここ数10年、国政選挙で投票率が80%を切ったことがないらしい。
みんな、政治や社会づくりにとても熱心!)
最近、greenzの友人たちが、地域分散型のエネルギーシステム構築を目指して
「R水素ネットワーク 」を立ち上げた。私はまだまだ何も知らないけれど、もっと関わっていかなくちゃ。
▼経済のこと。
日本にいると、そんなデンマークを手放しで称賛するよりも、
「そんな手厚い福祉じゃ、国民を甘やかしすぎなんじゃないか」
「国民の側が権利を享受しすぎなんじゃないか」
「家族の病気は家族の自己責任で対応すべきものなんじゃないか」
「こんなバラマキ福祉じゃ、国家財政が破綻するんじゃないか」
・・・なんて声が聞こえてきそう。 そう思って、調べちゃったよ。
デンマーク経済は決して危機に瀕していない。
みんなが怠け者になっているわけでもない。
デンマークは、食料とエネルギーを完全に自給して、ヨーロッパでも一番健全な経済を営む国だった。
国家財政は黒字経営で、黒字から国債の返済をしているから、次世代に借金を残さない国づくりができている。
一方で、日本は?
一般会計歳出の総額、83兆円。
そのうち、借金返済額が21兆円、社会保障額は21兆円で、
社会保障にあてられた金額が借金返済額とほぼ同額という、ビックリの事実を知ってしまった。
じゃあ、借金がいくらあるかって、
2006年度の債務残高は883兆円で、前年末の868兆円から15兆円も増えている。
地方自治体の債務残高も加えると、日本人ひとりあたりの債務残高は970万円相当に達している。
・・・ずっこけたくなる。
どうして私が、っていうかうちのモモが、
日本のために970万円の借金を抱えるようなことになっちゃったわけー?
デンマークでは、高福祉を支えるために消費税率を25%に設定している。
自動車の登録税は輸入価格の180%、所得税は30~59%だそう。
私の場合、たとえ給料の半分を税金にもっていかれても、
子どもの学費やきちんとした医療が絶対に保障されていて、
さらに老後の心配がまったくない社会なら、そのほうがずっといい。
「高い税金」には賛否両論あるだろうけど。 日本はこれからどういう方向に進むのかな。
▼最後に、平和と人権のこと。
子どもたちには未来のための投資こそすれ、
間違っても今の時代の負債なんて負わせないでください。
そんなあたりまえの願いが、デンマークでは実現できている。
そして、あたりまえの幸せと権利が絶対に保障されている豊かな国だから、
自分たちの他の人々にも、とってもオープンでいられる。
それを、今回の訪問で実感してきた。
中東やアフリカ、世界中で貧困や紛争に苦しむ国々から、
毎年すごい数の難民申請者がヨーロッパを訪れている。
私たちは、そんな asylum seeker たちを庇護しているデンマーク赤十字の施設を訪ねてきた。
ヨーロッパに移住してくる難民申請者の中には、
ひどい拷問を受け続けて精神的にダメージを受け、自分の子どもの世話さえできなくなってしまった人や、
「せめて自分の子どもだけでも」とエージェントに我が子を託して、
10歳に満たない子どもをたった一人で国外脱出させるようなケースもたくさんある。
何よりも大切な自分の子どもを、
自分も行ったことがない、もう会えないかもしれない場所に送り出すしかない親の気持ち。
それに、たった一人でまったく違う文化の中で生きていくしかない子どもの気持ち。
どちらも、想像しても、しきれないし、
話を聞いただけで圧倒的な悲しさに包まれて何もできなくなるだけの私。
でも、デンマーク赤十字では、そうした人たちが新しい社会で生きていけるように
信じられないような日々の努力を重ねて、最大限の環境を整えていた。
プロの医師と看護師、心理療法士とカウンセラー、言語指導者や教師、移民の先輩スタッフが
横のつながりを大切にうまく連携しながら、施設を運営していた。
ビックリしたのは、この施設内に住む子どもたちのために用意された学校が、
モンテッソーリ・スクールだったこと。
心の平和や、「やりたい」「学びたい」気持ちを奪われた子どもたちに一番必要なのは、
絶対の安心感と、自分や他者への信頼、それに自信。
それをはぐくむために、数年前からこのセンターにモンテッソーリ・メソッドが導入されたのだった。
たくさん光の入る大きな空間に、乳幼児から小学生まで80人近くの子どもたちが共存していた。
みんな外からの来客に興奮してか、表情は一様に明るかった。
私たちが連れて行った日本の子どもたちにもやさしく話しかけて、遊びに誘い入れてくれた。
もちろん、モモや他の「子どもの家」参加者の子どもたちが、優しかった彼らの背景を知る由もない。
みんな、新しいお友達が優しいのが嬉しくて、
そして自分たちもすでに知っている「子どもの家」の環境が目の前にあることも手伝って、
すごく自然に、ただ仲良く遊びに加わっていた。
・・・子どもって、すごいなあ。
大人が、子どもたちの抱えている問題を知って、躊躇して身動きもとれずにいる間に
あっという間に友達になって、一緒に遊んでいる。
そうだよね。目の前に困っている人がいるとき、「自分に何ができるか」なんて一人で考え込むよりも、
本当は、まずその人と仲良くなるのが一番だ。何をしてほしいか、それともほしくないかなんて、
本人のことをろくに知らずにわかるわけがない。
そういうシンプルな真理を、私はいつも子どもたちに教えてもらう気がする。
ちなみに、世界の難民受入れの人数はアメリカの3万人を筆頭に、2万人のドイツ、イギリス、
1万人のカナダ、フランス、オランダ、5千人のスウェーデン、イタリアが続く。
デンマークはスウェーデンやイギリス、フランスへの中継点となっていることもあって、
人数としては400人前後を受け入れるのみにとどまっている。
でも、申請中の人々を庇護する施設の充実と、そこで働く人々の熱心な思いや行動には
目をみはるものがあり、社会の成熟を感じずにはいられなかった。
しつこいですけど、一方で、日本。
難民認定数は年間100人に満たず、
申請中の人々が過ごす入国管理センターの施設は 「収容所」 と呼ばれている。
待遇はとても悪い。
本当に、モンテッソーリ教育どころの話じゃない。
申請期間中の人々が子どもを送る施設内学校なんてないのはもちろんのこと、
8畳間に8人が暮らしていたり、昼も夜もわからない「刑務所よりひどい」環境に置かれていると言われている。
内部の取材を認められた例がないために、難民申請者の証言から察するしかないのだけれど、
日本の現状は、多かれ少なかれ、そんな感じ。
難民申請者の人々のバックグラウンドの話を聞いたあとでは、情けなすぎて、泣けてくる。
デンマークで出会った子どもたちのこと、彼らがこれから生きていくデンマークという国のこと、
モモがもう少し大きくなったら、話をしようと思う。
最後に、もう一回、冒頭の疑問に戻りたい。
世界最高レベルの社会保障制度。食料もエネルギーも自給。国民の幸福度調査では、世界ナンバー・ワン!
・・・どう考えても、世界でもっとも民主主義が進んでいる国・デンマーク。
こんな国もあるのに、日本がアメリカばっかり真似をするのは、どうして??