自由学園訪問記

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「自由学園」をご存知ですか?

『家庭之友』『婦人之友』を発行していた羽仁もと子ご夫妻が90年前に創設した学校です。その幼児部は「生活団」と呼ばれ、坂本龍一さん、オノヨーコさんなどの著名人が通った場所として有名。「自分の身の回りのことを、自分でできるようになりましょう」の精神はモンテッソーリにも似て、とても面白い学校です。

先日、とあるイベントで、学園長先生にお会いし、

「幼稚園から大学まで、すべての子どもたちに自分たちの畑があります。中高生は、学年ごとに日替わりの当番制で、毎日300人分の食事を自炊してますよ。ご飯は薪を使った火起こしから、かまどで炊いています」
と伺い、驚きました。生活の自立だけじゃない。いま世界中で注目されている「食農育 / Edible Educationをとおした全人教育」の最先端だー!と興奮し、さっそく見学に伺いました。

 

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学園に入ると、まず、素敵な風景に参ります。広大な敷地に、丁寧につくられた建物。手入れの行き届いた畑に、花壇に、芝生。初等部を歩いていると、男子生徒がハンドベルを持って足早に歩いて行きます。何かと思えば、授業開始のベルは子どもたちが当番で、鳴らして歩くそう!

 

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まだ春分まえだと言うのに、この畑の様子。春〜夏は生命にあふれたガーデンなのだろうことが想像つきます。

 

自由学園の理念は「生活即教育」「自労自治」「本物に触れる」こと。自分たちの食事の配膳から皿洗いはもちろんのこと、植木の刈り込みや壊れた設備の保全まで、すべて(初等部はできる範囲で)子どもたちが行うそう。「皆で囲む食卓の周りに学びをつくる」とは、なんて素敵な方針でしょう。仕事はたくさんあるけれど「自治」を基本としているから「やらされている感」が全然ありません。子どもたちは、みんな本当にいい顔をしていました。

 

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この日は、初等部の子どもたちと一緒に、日替わりで父母がつくる(!)昼食をいただきました。メニューは、マッシュポテトたっぷりのラザニアと、ほうれん草のソテー。お、美味しい・・・。

昼食時間になると、高学年の生徒が集まってきて、テーブルを拭き、人数分のランチ皿を用意するところからはじまります。彼らは「テーブルマスター」と呼ばれ、1年生から6年生まで異年齢で交流できるテーブルの準備を取り仕切る。係が各学年で決まっていて、最後にお皿を洗うところまで全員でやることが、毎日の習慣!みんな家族のように、楽しそうに食事をしていました。

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「今日のジャムは、大学にあたる最高学部の学生が作ったものです。ぶどうですね。パンも、毎日学内で焼いています」

と先生に教えていただきました。おかずは、父母が2ヶ月に1度の当番制で作りにくるそう。

 

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「子どもたちの給食を、まさか父母が作るなんてね! 最初は、重労働だし、当番を終えたらもうグッタリで。正直、面倒くさいなって思っていました。でも、1年生から6年生までの親たちでこうして顔をあわせて一緒に手を動かすと、子育てについて先輩お母さんに教えてもらったり、子どもたちの日常を垣間みる機会にもなって。

子どもの学びの場に関わらせていただくことで、親としての自分が育てられたなって思うんです」

と、今は学園の食料部で働くようになった先生が話してくれました。

 

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途中、その日の食堂の司会の子どもに「お客様」として紹介され、ピースボートの話をしました。インドでスパイス農園へ行き、本場でスパイスからのカレーづくりをした話、パナマの熱帯雨林を歩いた話…。皆、ものすごく表情豊かに反応しながら聞いてくれました。「何才から乗れるんですか?」「ポスター見たことあります!」「アフリカにも行くんですか?」「すげー!」話をしたあとに、あんなに自由に感想や質問を伝えにきてくれる小学生たち。「この学校で会う大人にはなにを聞いても大丈夫」という安心感が伝わってきます。

自分の足で立ち、自分のことばで話すことを知っている子どもたち。本来当たり前の風景なのだけど、子どもがまっすぐに存在することを許されている環境、心震えました。

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中等部・高等部の生徒たちは、基本的には寮生活。中1〜高3までが一人ずつの縦割り部屋で暮らします。女子部の生徒は朝食も、昼食も、夕食も、当番制で300人ぶんを自分たちで作ります。自分たちの制服のスカートはもちろんのこと、校内のカーテンやランチョンマットなど、縫い物仕事はすべてお手の物。ふとしたところに素敵な刺繍がしてあったりして、なんだかもう、感激します・・・

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こちらは、毎週更新される言葉たち。生徒ひとりひとりが、毎週一度、自分の好きな言葉を選んでこうして壁に貼るそう。「必要の見極め」?!「使命の道を」?!「自身の経営」?!成熟しすぎていて、驚きます。

 

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男子部の黒板に書かれた「今日のことば」は「三日坊主、バンザイ!」(by修造カレンダー)。女子部との文化の違いが、面白い・・・!男子部の工房の倉庫には、プロ顔負けの工具の数々、なんだって作れそうな大きな材料がたくさんありました。

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中学生は、マスを育てます。先生から予算を聞き、買い付けから飼育、養殖池の修繕、薫製機から自作して育った魚をスモークし、学園祭で販売して費用を回収するところまで自分たちで取り組むのだそう。

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男子部にあった動物のオブジェ。かっこいいなあー!
今でこそ「世界一素敵な学校」などで米国のデモクラティックスクールが注目され、文科省も「子どもたちに生きる力を」とか「アクティブ・ラーニングを」なんていうけれど、いやはや。日本には、いまから90年も昔(1921年!)から自労自治の精神を掲げ、「食のまわりに学びを作る」の哲学で、最先端のアクティブラーニングをやる学校があったのでした。

 

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校舎の多くは、旧帝国ホテルも手がけた世界的建築家フランク・ロイド・ライト氏の弟子である遠藤新、遠藤楽父子による設計。天井が高く明るい食堂棟ほかいくつかの建物は「東京都選定歴史的建造物」にも指定されていました。それが、3万坪もの緑豊かな空間に点在しています。

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「いい風景ですよね。親も生徒も、最初は皆、このゆったりとした空間と美しい建築を、いいなあ、いいなあ。と言う。でも、すぐにそれが日常の風景になるんですよ。僕は、そこが大事だと思っています。
自然に囲まれ、丁寧に作られた建物で、暮らしに根ざした学びを得る。それがひとたび自分のなかで当たり前になってしまえば、社会に出たときに本物がわかる人間になる。看板だらけの町、作っては壊すプラスチックの山、偽物の情報に、違和感をおぼえるようになる」
そう教えてくださった学園長先生の言葉には、経験に根ざした誇りがありました。子どもたちの生き生きとした表情にも心震えたけれど、会う先生が皆、とても穏やかで、人間味があったのも印象的。魅力的な先生たちも、子どもたちの「当たり前」の一部として吸収されているとすると、本当に羨ましい!

 

暮らしを真ん中においた学びは、モンテッソーリ教育にも通じるところがあります。自ら手を動かし、自分で考えて、挑戦する自由。そこから子どもが学ぶものは計り知れません。日本にもこんな学校があったのか、と感動の余韻とともに帰路についたスタッフでした。

案内してくださった先生方、ありがとうございました!

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