洋上レポート(21):「やさしくすること」は嬉しくって楽しいこと

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船の中には1歳8ヵ月から7歳の子どもが12人います。
12人のお友達がいるから、「子どもの家」の保育時間が終わったあとも「右へ行きたい」、「左へ行きたい」、「プールに行きたい」と、みんなやりたいことも思うことも12人12色です。
昨日はナイキくん(6歳)、ニコちゃん(7歳)、ミリちゃん(4歳)の3人が子どもの家の帰り道、ベビーカーを押したいと集まりました。

杏ちゃん(1歳9ヵ月)がお昼寝したいときに船内でも使っているベビーカーは、みんな部屋まで押すお手伝いをしたくて仕方がありません。

押す順番を決めないうちに、ナイキくんが「ぼくがおす」とベビーカーを嬉しそうに押しはじめると、後ろの方から「ニコちゃんだって押したい~!!!!!」と、大泣き(尋常じゃない!!)が聞こえてきます。

のん:「ナイキくん、ニコちゃんが泣いてるね。どうしたのかな。」
ナイキ:「…」

大泣きのニコちゃんと、ナイキくんのお母さんが、一緒にやってきます。
押したくて押したくてうずうずしてるナイキくん。なかなかベビーカーをストップさせることができません。なんとか押したい気持ちを我慢してベビーカーをストップさせた後も、ニコちゃんは涙でなかなかお話をすることができません。

2人の間に沈黙の時間が続きます。

「ナイキくん、ニコちゃんのちかくに行ってあげないと、こえがきこえないよ」
「ニコちゃん、がんばって」
「みんなでじゅんばんにつかったら、みんながたのしいんだよ~」
と、横にいたミリちゃんが応援します。

「はなしがないなら、ナイキもうベビーカーおしていきたいんだけど!!」
と、度々言いながらも、ニコちゃんの口から言葉が出るのをちゃんと待っていたナイキくん。

10分程たって、お互いがちょっとずつの我慢をして、3人が順番にベビーカーを押すことができました。

「ピースボート子どもの家」では、保護者同士で、子ども同士の喧嘩に大人はなるべく介入しないように、と話し合っています。それは、本気でやろうと思ったら、実は大人にとっても大変なこと。
大人にももどかしかった10分間。子ども達には30分にも1時間にも感じたことでしょう。

──船の中にはいつでもゆっくりとした時間が流れています。
みんなが楽しむために乗っている船だから、「急いで」「早く」と言う人はどこにもいません。
船には子どもだけでなく、大学生のやさしいお兄さんやお姉さん、元気なおばちゃんや、90歳のゆっくり歩くおじいちゃん…色々な人が乗っています。

約900人の船の中にいるみんなが、子ども達をあたたかい目で見守ってくれます。
公共の場で守らなければならないルールはしっかり伝えますが、「~しなさい!!」「~でしょう!!」「時間ないから早くして!!」と怒鳴られて、大人の都合で子どもの問題を勝手に解決されたり、片付けられたりしてしまうことは、日本の生活よりも少ないように感じます。

どんな遊びをしようか、どこに行こうか、いつ次の場所に移動しようか、誰が使おうか、子ども達が自分たちで決めていけるチャンスや時間がたくさんあります。
お友達と問題がおきた時には、自分の力で問題を解決しなくてはいけません。

…その日の夕食時、ナイキくんがのんちゃんの席まできて
「のんちゃん、ほんとうはナイキ、ベビーカーずっとずっと押したかったんだよ。でもね、さっきにこちゃんがもう1回ありがとうって言ったの。ちょっとうれしくなったよ。だからケーキあげるね。」
と、デザートに出てきたケーキを分けてくれました。

順番に「すべきだ」とか、優しく「しなければならない」ではなくて、「優しくすることが、楽しくて嬉しいこと」なのだ、と子ども達は、こうして自然に学んでいくのだなと思います。

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